COI-NEXT「慶應×鎌倉」の中で、宮本憲二教授の微生物班は単に「微生物を研究するグループ」ではなく、プロジェクトのビジョンである「地球にかえす循環」を実現するための生物学的基盤技術を担っています。プロジェクト全体は「微生物からAIまでをつなぎ、資源がごみにならず循環する社会をつくる」という構想で設計されています。宮本教授は研究開発リーダーとして、その中の「地球に還す循環」を担当する立場にあります。
具体的な役割は大きく3つに整理できます。
1. 廃棄物を分解・資源化する微生物技術の開発
宮本研究室の専門は、プラスチック分解菌、プラスチック分解酵素、タンパク質工学、微生物資源利用です。特に難分解性プラスチックを分解・資化する微生物や酵素の探索を進めています。COI-NEXTでは、生分解性プラスチック、食品残渣、有機系廃棄物などを微生物によって分解し、再び自然循環へ戻す技術の開発が期待されています。
2. 「社会でまわす」だけでなく「地球にかえす」循環の実装
田中浩也教授らのデジタル班は、まちのコイン、資源トレーサビリティ、市民参加システムなどを担当しています。一方で宮本教授の微生物班は、「回収された資源を最終的にどう自然循環へ戻すか」という部分を担当します。
つまり、
- デジタル班 → 人とモノの循環
- 微生物班 → 物質と生態系の循環
という関係です。
プロジェクトの標語である「社会でまわす、地球にかえす、未来へのこす」のうち、「地球にかえす」を技術的に支えるのが宮本教授らの役割と言えます。
3. 「共生アップサイクル」の生物学的エンジン
このプロジェクトは通常のリサイクルではなく、共生アップサイクルを掲げています。そのため単に廃棄物を減らすだけではなく、微生物発酵、酵素変換、バイオプロセスによって新たな価値を生むことが重要になります。例えば、生分解性素材の開発、微生物による資源変換、バイオ由来材料創出などは、まさに宮本研究室の強みと重なります。
プロジェクト内での位置づけ
かなり単純化すると、
| グループ | 主な役割 |
| 田中浩也教授グループ | デジタル・Fab・地域通貨・市民参加 |
| 中澤仁教授グループ | AI・データ連携・スマートシティ |
| 宮本憲二教授グループ | 微生物・酵素・生分解・生物循環 |
という三本柱になっています。
したがって宮本教授の微生物班は、「鎌倉で集められた資源を、微生物や酵素の力で自然循環へ戻し、さらに高付加価値化するためのバイオテクノロジー部門」と理解すると最も実態に近いと思います。
微生物班はこのプロジェクトの中では 地域の資源循環やアップサイクルを実現するための中核技術を担うグループ と位置づけられています。COI-NEXT全体のビジョンは「共生アップサイクル社会」の実現であり、微生物はその循環システムを支える重要なアクターの一つとして扱われています。
宮本教授の研究内容を見ると、「微生物そのものの生態研究」よりも、微生物を使って地域の廃棄物や資源を循環させる技術開発と社会実装に重点があります。
実際にCOI-NEXT関連成果として、
- 鎌倉の土壌からポリプロピレン(PP)分解菌を発見
- 生分解性プラスチック Green Planet を高速分解する微生物を発見
- 西鎌倉小学校の土壌からプラスチック分解菌を発見
- 「地球に還るストロー」の実証実験
などが進められています。これらはすべて地域資源循環の実装を意識した研究です。したがって、COI-NEXT「慶應×鎌倉」の文脈で言えば、宮本教授の微生物班は「微生物を利用して、プラスチックや有機廃棄物を分解・資源化し、地域循環システムを実現するためのバイオテクノロジー班」と表現する方が実態に近いでしょう。
宮本憲二教授と田中浩也教授の役割分担
JSTの大型プロジェクト「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」で、正式には「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」というプロジェクトの中で、
- プロジェクトリーダー:田中浩也(SFC・環境情報学部)
- 研究開発リーダー:宮本憲二(理工学部)
という体制になっています。
この組み合わせが面白いのは、
- 田中教授 → デジタルファブリケーション、循環型デザイン、地域社会実装
- 宮本教授 → 微生物・酵素・プラスチック分解菌
で、ちょうど「捨てられたプラスチックをどう循環させるか」を、工学・デザイン・微生物学の両面から扱っている点です。
田中研究室はもともと、FabLab、3Dプリンタ、リサイクルプラスチック、市民参加型ものづくり、東京五輪の再生プラ表彰台など、「社会実装」寄りの活動で有名です。 一方、宮本研究室は、プラスチック分解菌、分解酵素、微生物による資源循環という「分子・生命科学」側を担当しています。つまり、「地域で回収したプラスチックをどう循環させるか」、「分解・再資源化をどう実現するか」、「市民がどう参加するか」を、SFC的な社会デザインと、理工学部の生命科学で接続しているわけですね。
特に田中教授は昔から、技術だけでなく社会制度まで設計する、市民参加を前提にする、“Fab City”や循環都市をつくるという思想を持っていて、宮本教授の「シチズンサイエンス」志向ともかなり噛み合っています。 慶應義塾の中でも、この組み合わせはかなり“SFC的”というか、学部の壁を越えて、研究・地域・市民参加を全部つなぐタイプのプロジェクトです。その中でも、田中浩也×宮本憲二の組み合わせは、かなり象徴的な成功例ですね。
慶應義塾はもともと、SFC(総合政策・環境情報)、理工、医学、政策、デザイン、AI、バイオを横断する文化が強い大学です。大学側も「領域横断研究」をかなり前面に出しています。 ただし、重要なのは、 “制度上できる”ことと、“本当にうまく回る”ことは別という点です。日本の大学では、学部ごとに文化がかなり違うので、多くの「学際プロジェクト」は名前だけで終わることもあります。
その中で、田中教授と宮本教授の組み合わせが機能しているのは、
* 田中教授が「社会システム・市民参加・デザイン」を扱う
* 宮本教授が「実際に分解する微生物・酵素」を扱う
というように、役割分担がかなり補完的だからです。
しかも両者とも、市民参加、地域連携、教育・outreach、社会実装への関心が強いので、研究哲学も近い。だから単なる「共同研究」ではなく、一体感のあるプロジェクトになっているわけです。 慶應義塾の中でも、かなり“成功パターン”ですね。


